美容 求人 医師 求人 萌通新聞 【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】その2
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【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】その2

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前回はこちら

179 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/05/31(日) 13:00:15 ID:N0Vry+jI
【10】

 皆との話し合いの次の日。
 ナナリーの病状はだいぶ落ち着いて来た模様。もう起き上がって食事も可能だそうだ。
 しかしまだ咳き込んでいるところを見ると、風邪をぶり返す恐れもあるので学校には行かせられない。今日こそは学校に行くと意気込むナナリーだが大事をとって休ませるとした。
 ちなみにナナリーには沙都子の件は伝えていない。伝えても余計な心配をかけるだけだ。ナナリーは目が見えないし、黙っていれば気が付かれる前に沙都子の件を処理することが出来るだろう。無論、今日中に方を付けるつもりだ。
 まず俺たちは普段どおり学校に登校し、留美子に沙都子の現状を報告することにした。無論留美子に話をした程度で沙都子を助けられはしないだろうから、彼女には俺たちが沙都子を助けるために動いているということを認識してもらうだけでいい。
 皆で留美子の居る職員室に押しかける。
「――というわけです、知恵先生」
「そうだったんですか……。ナナリーさんが風邪で休んでいますから、てっきり私は沙都子ちゃんも同じ理由で休んでいるとばかり……」
 留美子は生徒の異変に気づけなかったことに酷く落ち込んでいるようだ。
「たしか、沙都子の叔父には電話で病欠って言われたんでしたね?」
「はい……私はそれを信用しきっていました。そういうことならば、すぐにでも家庭訪問をして確認を取るべきですね」
 さすが生徒想いの留美子だ。すでに事態を重く見ている。だが今は留美子には動いてもらいたくはない。
「すみませんが、それは止めていただきたいですね。今は下手に叔父を刺激するべきではありません」
「で、ですが今はそんな悠長なことを言っていられる状況ではありませんよ!」
 落ち着きなく声を荒らげる留美子。彼女は生徒のために何かしなくてはと躍起になっている。
 俺は声のトーンを落とし、留美子をなだめるように言った。
「そうですね、事態は一刻の猶予もありません。ですが知恵先生、生徒を大事に想うその心はとても尊敬できますが、そのように熱くなっていては適切な判断ができないと思います。ですから、この件は僕たちに任せていただけませんか」



180 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/05/31(日) 13:00:56 ID:N0Vry+jI

「貴方たちに?」
 俺の提案に留美子がきょとんとして聞き返してきた。
「ええ。僕たちはすでに沙都子を叔父の手から救出する算段がついています」
「なんですって? 一体何をするつもりですか」
 留美子は俺たちが何か良からぬことを企んでいると思ったらしい。すかさず俺は彼女の考えを首を横に振って否定した。
「大丈夫です、知恵先生が思っているような物騒なことは考えてませんよ」
「では、どうすると言うんですか?」
 留美子は安心したのか、少しだけ表情を和らげ先を促す。
 決まっている。園崎お魎が沙都子を認めれば、村人の冷遇も自然消滅する。何も村人全員を説得する必要はないのだ。難しく考える必要はない。園崎お魎の説得、この一手ですべての障害はクリアされるのだから。
「この村の有力者、園崎お魎を味方に付けようと思います」
「え、それは一体どういうことです?」
 ん……そうか。留美子は沙都子の問題が如何に複雑なものになっているのか知らないというわけか。……よくよく考えてみればそれも当然だな。大切な生徒が村八分などされていると知っていたなら、留美子はすでに大騒ぎをしてこの村には居られなくなっていることだろう。
 何にせよ、沙都子の問題の裏事情を留美子に一から説明し且つ納得させるのは骨が折れる。
 それに教師という存在はここぞという時には役に立たないのだから居ても邪魔なだけだ。そんな無駄な時間を割く余裕は今の俺たちにはない。
 俺は留美子の疑問には応えず、一気にまくし立てた。
「そのために今日魅音の家にお邪魔しようと考えているのですが――――学校が終わってからだと遅くなりますし迷惑なので、今から訪問する許可を頂けませんか」
 俺はその返事を待つことなく、留美子の瞳を見つめて次なる言葉を紡ぎ出した。
「なに、大船に乗った気持ちで待っていてください、知恵先生。
 "貴女はただ外出の許可を出し、俺たちを見送るだけでいい"」
 歌うように紡いだ言葉にギアスをそっと乗せて。
 ――――。
 ――――――――。
 ………………。
 一瞬のタイムラグの後、留美子は再び口を開いた。
「……そうですね、北条さんの件はルルーシュくんに任せることにします。よろしくお願いしますね」
「分かりました、ありがとうございます」
 内心ほくそ笑みながら、うわべだけのお礼を言う。
 これでもうここには用はなくなった。
 踵を返して職員室を後にしようとすると、背後では魅音とレナが顔を見合わせていた。普段の留美子なら自分も同伴すると言い出すはずだからである。
 妙にあっけなく留美子が引き下がったので拍子抜けしているのだろう。無理もない。
 職員室を出てすぐ、
「一体どんな魔法使ったの?」
 なんて魅音が間抜け面で聞いてくるものだから、俺は笑いをこらえてこう答えてやった。
「馬鹿言うな、この世にそんなお手軽便利な力があるわけないだろう?」 



184 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/06(土) 15:39:27 ID:l47lOoRR

 留美子に外出の許可をもらった俺たちは大手を振って魅音の家、園崎本家に向かった。
 魅音に仲介役を頼み、本家の車寄せで待つ。何しろアポなしの俺たちだ。魅音には精一杯頑張ってもらわないといけないだろう。
 小一時間待ち、太陽が西へと傾きかけた頃――魅音がようやく屋敷から出てきた。玄関から車寄せまで少しばかり距離があるから、小さく手を振っている姿だけが遠めに見えた。
 魅音は俺たちの近くまでは戻らず、皆に見えるよう大きく両手で円を作ってオーケーのサインを出す。どうやら面会の承諾が取れたようだ。
 俺たちは顔を見合わせて示し合わせるように魅音に駆け寄った。
「魅音、面会は可能なんだな?」
 念のため確認すると、魅音はこくんと頷いた。それから苦笑しながら全員の顔を見回して聞いた。
「けど、うちのばっちゃは怖いよ。覚悟はいい?」
 皆が一様に深く頷いた。
「愚問だな。沙都子を必ず助けると誓った俺たちだ、覚悟などとうに出来ている」
「それもそうだね、失敬失敬!」
 魅音が冗談めかして言う。
 レナが静かに口を開いた。
「それで、魅ぃちゃん? 魅ぃちゃんのお婆ちゃんはどこで待っているのかな」
「……ばっちゃの寝室だよ。あまり体調が良くないみたいだから、面会時間はあまり多くは取れないと思う」
「そうか、なら尚更手段を選んでいる暇はないな」
「ルルーシュ、それはどういう意味です?」
 俺の独り言気味の言葉に対し、思いのほか梨花が強く反応を示した。だがそれには答えない。
 俺は一人歩き出すと玄関の戸をからりと開け、後ろを振り返った。
「もたもたするな、行くぞ。分かっていると思うが、時間が経つにつれて状況は刻々と悪くなるんだからな」

 

185 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/06(土) 15:41:35 ID:l47lOoRR
 魅音の案内のもと、俺たちはお魎の寝室に向かった。長い廊下を一列に並んで進む。皆、終始無言だった。
 しばらくして廊下の突き当たりを右折すると、部屋の前に二人の黒服の男が立っているのが見えた。どうやらそこがお魎の待つ寝室らしい。
 魅音が男たちに近寄ると彼らは頭を下げ道を譲った。
 魅音に続く形で入室すると、すでに俺たち以外の皆が揃っていた。入るなり彼らからの視線の一斉射撃を食らう。
 園崎天皇とまで呼ばれるお魎その人は、布団に入ったままクッションのようなもので上体を支えながら偉そうに俺たちを見つめている。その鋭い眼光はさすが園崎頭首である。
 ところが鋭い眼光は彼女だけでなく、その場にいた五人の重鎮らしき人物らも発していた。その一人は着物を着こなした女性――魅音の母親、園崎茜である。
 着席すると魅音が俺たちをその場にいる全員に紹介する。それが終わると早速本題に入った。
 代表の俺が今までのいきさつを説明している間、ずっとお魎は厳しい顔をしていた。
「――以上。現在、沙都子は村人によって不当な差別を受け、また叔父によって危害を加えられている。沙都子を助けるため、その問題の根幹である園崎家と北条家の確執を解消してやって欲しい」
 一通り言い終えた後は黙ってお魎の返事を待つ。お魎は隣にいる魅音の母親の茜に聞こえる程度の声量で何かを言った。俺の位置からじゃボソボソとしか聞こえないのが腹立たしい。
 仕方なしにしばらく待っていると、茜がお魎の言葉を代理で口にした。さらりと簡潔に。
「駄目だとさ」
 やはりそう来たか。
 しかしそれで『はいそうですか』と帰るわけにはいかない。
「……何故です。北条家の罪は沙都子の両親が亡くなった時点で償われたはずだ。沙都子には一切の関係がない。にも関わらず、今も彼女が村中から不当な冷遇を受け続けているのは園崎家の罪ではないのか?」
「あたし達の罪だって?」
「その通りです。北条家側はすでに贖罪されている。ならば、今度は園崎家が贖罪をする番ではないのか」
「つまり極道なら仁義を通せと、こういうわけかい。ブリタニアの坊やが言うじゃないか、くっくっく」
 俺の言い分を聞き、茜が嘲る。それが癪に触り、俺は目を細め茜を睨んだ。
「何かおかしい所でも?」
 茜は人に睨まれることなどとうに慣れているのだろう。なお笑いながら言葉を返してきた。
「くっくっく、そりゃおかしいさ。坊や……ルルーシュ君と言ったねぇ。お前さん、考えがずれているよ」
 何だと? そいつは一体どういうことだ。
 俺は焦りを悟られないよう落ち着いて先を促した。
「ずれているとは?」
「分からないかい? 北条家の罪がすでに償われているなんてことはない、故に私たちも仁義を通す必要がないってわけさ」
「しかし北条夫妻は……!」
「そう、確かに亡くなった。だけどねぇ、彼らは本家に謝罪に来たわけでもなく、ただ勝手に事故で死んだだけさ。償ったわけではないだろう?」
「っ……」
 俺は茜の物言いに耐えかねて、思わず唇を噛んだ。
 許して欲しいのなら死んだ人間に謝まらせろと園崎家は本気で言っているのか。そんなことは不可能だ。
 ならば代わりに沙都子に謝らせろという論法か? それこそあり得ない! 昨日の沙都子の精神状態では軽く頭を下げることすらも難しい!
「…………」
 そこまで考えて俺の心は急速に冷めていった。
 ……そうか。お前らがそのつもりならば使ってやろう、絶対遵守の力を。
 魅音の家族だからあまり使いたくはなかったが、こうなればそうも言ってられない。お前らには全力で沙都子を助けろという命令を遵守してもらう。
 俺は座ったままお魎と目を合わせるとギアスを開放する。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じ、
「おおっとそこまでだ。何をするつもりか知らないけどね、それ以上勝手したら容赦しないよ」
 ――――それは、俺がギアスを発動させようとした瞬間の出来事だった。茜は俺の喉を貫く寸前で日本刀の切っ先を静止させていた。
「喋っても殺す。立ち上がっても殺す。娘の友達だからといって容赦はしない、躊躇なく殺す。だから間違っても、決して動くんじゃないよ」

186 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/06(土) 15:43:27 ID:l47lOoRR
 
 まさかギアス能力を気取られたというのか。俺は想定外の事態にいつもの冷静さを保つことが出来ない。
「お、お母さん?! 何しているの!」
 思い出したように魅音が悲鳴に近い声を上げる。俺も魅音と同様に叫び声を上げたい気持ちで一杯だったが、恐怖で悴んで言葉が出なかった。
 もっとも、それが幸いして俺は喉を貫かれることなく、未だ生きることを許されているのだが。
「いやなに、この坊やから酷く嫌な気配がしたんだよ。例えるなら暗殺者が自慢の一撃で標的を狩る時のような、さ。ほら、やられる前にやるのが極道の定石ってもんだろう?」
「やめてよ! ルルが何をするって言うの!」
 茜は魅音の必死な嘆願にも眉一つ動かさず、刀を俺の喉元に当てながら淡々と答えた。
「このブリタニアの坊やが何をするか、それはあたしには分からないさ。けどね、この坊やが”たった今やろうとしたことを諦めない限り”、あたしは刀を引く気はないさね」
 どうやらギアスそのものの正体を掴まれているわけではないようだ。
 茜が感じているものは気配。正体不明の力――ギアスを阻止出来たのも、極道を貫き、死線を幾つも潜り抜けて磨いた洞察眼の賜物だろう。
「ルルーシュくん!」
 茜と俺の間に入ろうとレナたちがすっと立ち上がるが、周囲に座っている重鎮たちが彼女たちを拘束した。
「話はしまいだね。そろそろ帰ってもらおうか」
 しばらくして茜が告げる。
 くそ、馬鹿げている……。こんな何も解決していない状況で引き下がることなどできるものか。
 このままでは沙都子は一生消えない心の傷を負うことになる。そうなれば俺たちは痛々しくも壊れた沙都子を目の当たりにし、無力だった自分自身を呪いながら生涯苦悩し続けるだろう。……そんな世界を認めるわけにはいかない、絶対に。
 俺はもう誰も失いたくないんだ。
「だから――――」
 咄嗟に茜の日本刀の刃を右手で鷲掴むと、俺はそのまま喉元から切っ先を逸らした。手のひらから鮮血が流れ、痛みと共に腕を伝うがさして気にはならない。
 茜は俺がそのような真似をするとは夢にも思わなかったのだろう、ぎょっとして身体を硬直させていた。この時ばかりは流石の茜も動揺を隠せなかったらしい。
「アンタ、一体何してるんだい……使い物にならなくなる前に、早くその手を離しな!」
 そう叱り付けながら俺を見下ろすその顔は酷く青ざめていた。
 一方、俺の頭はむしろ頗る冷静だった。茜の僅かな隙を突き、お魎に向けて吼えるようにギアスを叩き付けた。

「"沙都子を、助けろッッッ"!!」


200 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/20(土) 09:55:22 ID:kVQipzlM
【11】

 ギアスの効果によって、お魎は沙都子を助けることをあっさりと承諾した。それから程なくして話し合いはお開きとなった。
 茜はお魎の態度の急変に戸惑いつつも、黒服を身に纏った葛西という男に今から北条家に向かうよう指示を出した。
 葛西は短くはいと言葉を返し、黒服の男を数人連れて屋敷を出て行く。俺は縁側に座ってそれを眺めていた。
「ふっ、何をするかは知らないが、可能な限り平和的に解決して欲しいものだな」
 手のひらに出来た刀の傷の手当てをレナにしてもらいながらそっと呟く。
「しっかしルルも無茶するよねー」
 傍らで魅音が呆れたように言う。
 まあ、たしかに俺にしてはゴリ押しの解決法だったがな。
 手当てが終わってからレナが頬をぷくっと膨らませた。
「本当だよ。レナは怒ってるんだからね。幸い軽傷で済んだけど、下手したら手首から上がなくなってもおかしくなかったんだよ、だよ」
「む……それは困る、無事で何よりだった」
 あれは出来るだけ刃先に触らないように気をつけた上での演出なのだから、本当に大怪我をしたら間抜けもいいとこだ。
「ま、そのおかげでばっちゃを説得できたんだけどさ」
 魅音が場を和ませようとからからと笑った。
 どうやら魅音は俺の大立ち回りよりお魎の気持ちが動いたと思ったらしい。好都合だ、他の皆も同様の勘違いをしてくれる嬉しいんだがな。
 さて、村人による沙都子の冷遇も今日中にはなくなるだろう。まだ沙都子が救出されたわけではないが、この件は園崎家と魅音たちに全面的に任せておけばいい。
 問題は三日後の綿流しの日に起こるとされるオヤシロさまの祟りだ。まだ何も対策が打てていない状態で肩の荷を下ろした気にはなれない。
 結局この村に住むギアス能力者の正体は分からず、下手に動くことも出来ない。残された時間も僅かだ。
 これからどうするべきか……。
 今後の指針を考えている時、背後から突然名前を呼ばれた。
「ルルーシュ」
 振り返ると梨花が立っていた。
「なんだ、梨花か。どうかしたか?」
「貴方に話があるのです」
「俺に?」
「はいです。少しその辺まで付き合ってくださいなのです」
 改まって一体何の用だろうか。
 沙都子の件か? それとも何か別の――。
 一旦は思考を巡らせてみたものの、梨花に直接聞けば答えが出る話なので馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
「分かった。では場所を移そう」
 梨花はこくんと頷くと踵を返し、一人歩き出した。その後ろを黙って着いて行く。
 進行方向から玄関へ向かっていると分かる。おそらく外に出て、屋敷の庭園で話をするのだろう。
「駄目だよルル、幼女に妙な真似しちゃ! くっくっく!」
 背中越しに魅音の軽口が飛んで来たが無視しておくとしよう。


201 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/20(土) 09:56:54 ID:kVQipzlM
 案の定、移動した先は園崎家の庭園だった。その造りはブリタニア人の俺ですら美しいと思えるほど完璧で非の打ち所がない。
 まだ日本にこのような場所が残されていたのか。思わず息を飲む。
 しばらく歩くと大きな池が目の前に飛び込んでくる。俺はそこで歩みを止め、梨花の背に声をかけた。
「おい梨花。……それで? 話とはなんだ」
 いつまで経っても話を切り出さない梨花に痺れを切らして先を促す。
 梨花は逡巡した後、静かに口を開いた。
「そうですね、ここならば盗み聞きされることもないでしょう」
 いつもと違う口調で喋る梨花に違和感を覚えながらも、俺は冗談交じりに言葉を返した。
「フッ、そんな秘匿性の高い話をされるほど俺はお前と深い仲だったのかな?」
 梨花は顔を真っ赤にして慌てて否定するとばかり思っていた。ところが、実際に彼女のとった態度は俺の予想を遥かに裏切るものだった。
 長く艶のある黒髪をふわりと撫で上げると梨花は心底おかしそうに笑みを浮かべながら言った。
「ええ、そうね。たしかに私と貴方はある意味深い仲と呼べる間柄かもしれないわね、くすくす」
「……どういう意味だ」
 まさかこいつは……。
 咄嗟に最悪のケースを頭に思い浮かべて身構える。
 そうでないことを切に願って。
 だが――梨花の返答によって、俺の願いは完膚なきまでに裏切られた。
「驚いたわ。ルルーシュ、貴方もギアスユーザーだったなんてね」
 その言葉を捉えるなり、梨花を敵と判断する。現状ではオヤシロさまの祟りはコイツの仕業である可能性が高い。俺は可能な限り迅速にバックステップにて梨花との間合いを取った。


218 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:35:01 ID:2Vztb5Gj

 後ろに飛びつつギアスを開放させる。
 この間合いこそ、俺のギアスがもっとも上手く機能する距離。相手がどのようなギアスだろうと俺のギアスのほうが早く効果を発揮するはず。
「取った!」
「待ってルルーシュ!」
 絶対遵守の命令を発声しようとした矢先、突然梨花の制止の声が入った。
「私は貴方とやり合うつもりはないわ!」
「……どうかな。そう信用させた所で不意を突くんじゃないのか?」
「誓ってそんなことはしないわ。むしろ貴方のそのギアスで洗脳されないか怖いのは私のほうよ」
「ふん、こちらの手の内はすべて知られているということか」
「ええ、けれど何度も言うように貴方とやり合う気はないわ。だって戦う理由がないじゃない」
 戦う理由がない。本当にそうか?
「お前がギアス能力を使ってオヤシロさまの祟りを引き起こしていると考えれば理由は十分だ。次の標的はこの俺なんだろう?」
 自問自答の末、梨花の言い分を否定して間髪いれずに鎌をかけるよう疑問を投げかける。すると梨花は顔を真っ青にし、神妙な面持ちで聞き返してきた。
「……貴方、まさか発症しているわけじゃないわよね……?」
「一体何のことだ」
 発症……病院に行かない限り普段はあまり耳にしない単語だ。そのワードについて思いを巡らせてみたが、今優先すべきことはそれではないと考え直し、途中で思考を打ち切った。
 梨花を注意深く観察する。もし彼女が少しでも不審な動きを見せたら迷わずギアスを使うつもりだ。
「貴方……その腕の傷。……掻いたのね?」
「なに?」
 梨花に指摘されて腕に視線を移すと、右腕に引っかき傷が乱雑に刻印されていることに気がついた。
 おかしい。先程までこんなものはなかったのに。
 いつの間にか掻き毟っていた……?
 引っかき傷はすでにミミズ腫れとなっており、糸状に赤く膨れて血が滲んでいる。それを視認するなり、腕が強く疼き出した。遮二無二掻き毟る。
 まずい、このまま掻き続ければ重要な血管までも傷つけることになる……。それが分かっていながら自傷行為を止めることが出来ない。
「くっ……どうして急に腕が……。まさかこれがお前のギアスか?!」
「やっぱり……発症しているのね」
「発症とは何だ?! 答えろ!」
 俺は梨花をきつく睨みつけると、冷静さを欠いたまま厳しく追及した。



219 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:35:54 ID:2Vztb5Gj

 梨花は酷く落胆した様子でため息を一つ吐くと重い口を開いた。
「……まず、貴方の腕の痒みは私のギアス能力のせいではないわ。原因はこの土地に古くからある風土病」
「風土病だと?」
「ええ、貴方が発症している病は雛見沢症候群と呼ばれている。発症者は疑心暗鬼に駆られ、周囲の言葉に耳を貸そうとしなくなる。次第に幻覚を見るようになり、身体の随所に痒みを覚え……いずれは凶行に走って絶命する。故に貴方は一刻も早く処置を受けるべきよ」
「そんな話、信じられるものか」
 病気ならば発病前に何かしら兆候が見られるはずだ。だがこの痒みは梨花と会話をしている間に突然起こった。
 梨花の話がまったくのデタラメで、コイツのギアス能力のせいだと考えるのが一番妥当だ。
「そうでしょうね……。一度発症して私の話をちゃんと聞いてくれた人は今まで誰もいないもの。……この世界には期待していたのだけど、こうなっては終り、ね」
 そう呟くように言うと、梨花はポケットから何かを取り出した。
 あれは……注射?
「これは貴方の痒みを止めることが出来る治療薬。もし使いたければあげるわ……。ま、信じる信じないは貴方が決めることだけど」
 梨花は注射を指で玩びながら、さらに続けた。
「それでも最後にもう一度だけ。ギアスユーザーとではなく、貴方の仲間として説得させて欲しい」
 ……。その表情はなんと悲痛なものだろうか……。
 心がずきりと痛む。
 いや、騙されるな。これは情に訴える梨花の作戦だ。注射の中身は治療薬なんかではなく、おそらく俺を絶命させるための毒薬に違いない。
 しかし……もしも梨花の言葉が本当に――だったら……?
 馬鹿、甘い考えは止めろ。今目の前にいるのは仲間なんかじゃない、俺を殺そうとしている敵ではないか。すでにギアスの先制攻撃を受けている。もはや確定的なはずだ。だが……でも。
 信じたいのに、信じられないまま……唇をぎゅっと噛み締め、梨花の言葉に耳を傾ける。
「私は貴方の敵ではない。考えてもみてよ……私が沙都子を助けてくれた恩人の貴方とやり合う理由がどこにあるっていうの。ルルーシュ、お願い……私を、信じてよっ……」
 梨花の瞳からは一抹の涙が零れ落ちる。俺は無意識にそれを目で追った。
 彼女の涙は夕焼け色に煌きながら、すうっと地面に溶けてすぐに見えなくなった。その一瞬の情景が酷く心に残り、胸を強く締め付けた。
 …………。
「……駄目だ。信じられない」
「そう……」
 分かっていたことなのか、梨花は至極簡単に諦めの色を見せた。それでも肩はうな垂れ、失望した様子がありありと見て取れる。しかし、そんな態度を取られても到底信じられるわけがないのだ。
 だから俺は梨花の瞳を覗き込み、彼女に対して絶対遵守の力を発動させた。


228 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/07/11(土) 09:10:32 ID:sdUKfmce


 呆然と立ち尽くした俺の手には、梨花から貰い受けた注射が使用済みの状態で握られていた。
 自らの取った選択を振り返る。
 疑心暗鬼に取り付かれた俺が取った行動は仲間に対してギアスを使用することだった。
 その遵守内容は腕の痒みを止める手段を提供させること。ギアス能力は絶対であり、嘘をつくことができない。それが疑心に狂った俺の命綱となった。
 ギアスに心を奪われた梨花は一瞬見動きを止めた後、すぐさま俺に注射を手渡してきた。
 受け取った注射を打つと腕の痒みはぴたりと止まり、頭は霞が晴れたように鮮明になった。この時ようやく俺は梨花の言うことが真実で、自らが雛見沢の奇病とやらに感染していた事実を認識できた。
「しかし病気に侵されていたとはいえ仲間を疑ってしまうとは……」
 梨花は未だギアスの効果によって放心状態だ。しばらくすれば開放されると思うが……ギアスに保証はない。最悪このままかもしれないと思うと、仲間に対しギアスを使ってしまったという後悔と自己嫌悪が募る。
「……ルルー、シュ……?」
 意識が戻り、俺の名を呼ぶ梨花。何が起こったのか分からず酷く困惑しているようだ。
 そんな梨花の様子にほっと安堵のため息をついたものの、俺はすぐさま謝罪の言葉を口にした。
「……すまない梨花、ギアス能力を使わせてもらった。あの場合そうせざるを得なかった……」
「ルルーシュ……いえ、良くやってくれたわ」
「……怒らないのか?」
 梨花は長い髪をなびかせながらふるふると首を横に振った。
「そんなわけないじゃない。ギアスで殺されるか、操り人形にされるか。いずれにしろ貴方を正気に戻すことは叶わないと思ってたもの」
 そこで一旦言葉を切り、梨花は俺に問う。
「それで……貴方の雛見沢症候群のほうは治まったと考えていいのね?」
 激しかった腕の痒みは収束し、疑心の炎は消え去っている。もう平気だろう。自分の体調を分析してから言葉を返した。
「ああ、問題ない。疑ってすまなかった、お前の話は真実だったんだな」
「よかった……」
 そう呟くように言うと、梨花はその場にぺたりと座り込んだ。
「それで? 自らの正体を明かして一体どういうつもりだ。まさかギアスユーザー同士の同窓会ってわけでもあるまい」
「ええ、違うわ。これから貴方の力を借りる上でお互いの秘密は共有すべきかと思ったのよ。もっとも、そのせいで大変なことになるところだったのだけど」
「力を借りるだと?」
 梨花は深く頷いてから言葉を連ねた。
「そうよ、ルルーシュ。貴方がこんなにも力強く心優しい人間としてこの雛見沢に来たのは今回が初めて。私はこのチャンスを逃したくはなかったの」
「……どういう意味だろうか」
 俺の問いかけを聞いているのかいないのか、梨花は独りごちるように言葉を紡ぎ続けた。
「今までの貴方なら、まず沙都子を助けようなどと考えはしなかった。
 ルルーシュ・ランペルージにとって仲間は退屈な日常を紛らわすためだけの存在であり、例え仲間が危機に陥っても、対岸の火事を見ているかのように『ああそうか』と思うだけだったはず。
 何が貴方をここまで変えたのか分からない。けれど……ただ一点、私にはこの世界が奇跡であると分かる」
「梨花、話が見えない。順序立てて説明してもらおうか」
「そうね、ごめんなさい。さて……どこから話せばいいのかしら」
 梨花は自分の置かれている立場を淡々と話し始めた。


229 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/07/11(土) 09:52:50 ID:sdUKfmce
 梨花の話はとても常識では考えられない話だった。超常の力――ギアスを得ていなかったならおそらく俺自身、耳を傾けなかっただろう。だから梨花が事前に自分が能力者であることを俺に打ち明けたのは、紆余曲折あったにせよ、今なら正しい選択であったといえる。
 まず梨花のギアス能力について説明を受けた。
 彼女の能力は時間流離のギアス、時間を過去へと巻き戻すことが出来るものだそうだ。
 それが事実であるなら、考えうる限り最強のギアス能力だ。俺などのギアスではまるで歯が立たない。
 確かに俺のギアスは発動さえすれば必殺の力がある。しかしそれも一の世界ならばではだ。百の世界、千の世界では彼女の右に出る能力者はまずいないだろう。
 ただそんな最強の能力にも弱みはあるらしい。発動が死の瞬間にだけ固定されており、いつでもというわけにはいかないようだ。
 また死から2・3日の記憶が混濁するようで、殺害時の状況が今ひとつ要領を得ない。
 つまり犯人・殺害動機共に不明。それ故に、彼女は綿流しの日の数日後に――おそらく連続怪死事件の関係で――必ず殺され、そのギアスの力で何度も同じ時間を繰り返しているそうだ。
 それから連続怪死事件には雛見沢症候群が密接に関係していると聞かされた。
「雛見沢症候群だったか。雛見沢に昔からある風土病といってたな」
「ええ。もっとも、正式な名称はなくて地名を取ってそう呼ばれているだけなのだけど」
 元凶はこの土地に生息する、ある寄生型病原菌。それが人間の脳に寄生し、宿主を疑心暗鬼に取り付かせる。最後には発狂させ、宿主を凶行に駆り立てるという。
 その病原菌は空気感染で広がり、雛見沢に住む者は全員感染しているそうだ。
 たしかにこれならば、ギアスなんて力を使わなくとも連続怪死事件の全てに説明がつく。……サクラダイト発掘会社のバラバラ殺人事件にも。沙都子の叔母撲殺事件にも。
 梨花から話を粗方聞き終え、俺はため息混じりに口を開いた。
「すると、雛見沢連続怪死事件は連続していなかった?」
「ええ、連続怪死事件は決して連続しているわけではなく、おそらくは雛見沢症候群が引き起こした個々の悲劇に過ぎない」
 個々の悲劇か。一つ間違えれば俺もそれに名を連ねてたというわけだ。
 錯乱して周りの人間に危害を加え、何も分からずに絶命する……。そんな光景が頭に浮かんで背筋が凍った。
「……待て。連続怪死事件は雛見沢症候群による個別の事件といったな。ならばお前自身の死もそれが原因なのだろうか?」
「それもなかったわけじゃないけれど……」
 俺の疑問に梨花は言葉を渋る。梨花自身考えあぐねているようだ。
「けれど、何だ?」
「私は、真犯人は雛見沢症候群を発症していない人間だと思う。私の殺害は大抵、生きたまま腸を引きずり出されて行われるのだから」
「分からないな。お前の死に雛見沢症候群が直接関与していないとする理由は?」
「殺害手順が同じということはつまり、同じ人物が同じ時期に発症して私を殺しに来るという話になるからよ。
 ところが今の雛見沢症候群の病原性は昔のそれと比べると著しく弱体化してるの。発症なんて稀なはず。
 貴方自身発症したから説得力はないでしょうけど、毎回そう都合よく同一人物が雛見沢症候群を発症させ、私を殺しに来るとは考えられない」
「なるほどな。そこには雛見沢症候群の発病などという偶発的なものではなく、何者かの意思が確かに介入しているというわけだ」
「そうなるわ。そして例外なく起こる死は私だけではないの」
「というと?」
「今年は、毎年綿流しの日になると現れる富竹という男と入江診療所の鷹野という女が殺される。
 最初私は自分の命ばかり考えてたけど、しばらくして彼らの死が私の死に直結していることに気がついた。私が助かるためには彼らにも生きてもらわなくてはならない」
 それから梨花は雛見沢症状群を研究する組織――東京――が存在する事実を明かした。
 富竹と鷹野はその組織の一員で、日本がブリタニアに敗戦した後も変わらず雛見沢症候群を根絶させようとしているそうだ。
 梨花は自らの体内に雛見沢症候群の親玉を飼っていると告げる。話を聞く限り、その組織にとって彼女は女王感染者と呼ばれる存在であり、極めて重要人物らしい。
 富竹と鷹野は研究の存続のため、梨花に危険が及べば守らなくてはならない立場にいる。
 二人を殺す理由は単純明快。梨花を殺すために二人が邪魔なのだろう。
「――と、話が長くなったけど、私が言いたいことは一つしかないわ。ルルーシュ、貴方の力を借りたい。協力してくれるかしら」
「ああ、勿論だ。絶対にお前を死なせはしない」


249 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/08/03(月) 21:36:11 ID:09OMKvyg
【12】

「あ、こんな所にいたー! ルル! 梨花ちゃん!」
 硬い握手を交わす俺たちの元に遠方からの魅音の呼び声が届く。
 魅音は肩で息をしながらこちらに駆け寄ってくる。
「どうした、魅音?」
 俺が涼しい顔で訊ね聞くと、魅音は口をあんぐりと開けて非難の声を上げた。
「どうしたじゃないよっ、沙都子が無事救出されたって連絡が着たからルルたちにも知らせようと思ったのに、あんた達どこにもいないじゃん! まったくもーっ、何やってんのこんなとこで! 散々探したよ!」
「ああ、そいつはすまない。で、沙都子は今どこにいる?」
「それがね、鉄平に相当痛めつけられたらしくて、今は入江診療所で怪我の治療をしているみたいだよ」
「沙都子は大丈夫なのですか?!」
 梨花の甲高い声が辺りに響く。
 魅音はそれを聞くと深く頷いて微笑を浮かべた。
「平気だよ、本人はいたって元気。今は憑き物が落ちたようにけろりとしてるよ」
「そう……良かったのです」
 梨花がほっと安堵のため息をつく傍らで、俺も顔を綻ばせた。
「レナは一足先に診療所に行ってる。私たちも行くよ!」
 どうやら魅音は沙都子の容態を人づてに聞いただけのようだ。早く自分の目で確認したいのだろう。魅音が俺たちを急き立てる。
「ルルーシュ、行きましょう!」
 梨花の言葉に頷くと、俺は梨花と共に魅音の背を追いかけるように診療所へ向かった。



250 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/08/03(月) 21:38:00 ID:09OMKvyg

 しばらく小走りで駆けた後、ようやく診療所へと到着した。
 園崎本家からここまで幾らか距離ある。沙都子の安否が気になり、慣れない運動をしたためか身体は熱り、背中はびっしょりと汗ばんでいた。
 自動ドアをくぐるとエアコンのひんやりとした空気が心地よく身体に吹き付ける。するとうだるような暑さが嘘のように退いていった。
 乱れた呼吸を整えて、診療所内を見渡してから魅音に訊ねた。
「沙都子の病室は?」
「ごめん、ちょっと受付で聞いてみるよ。そこまでは電話で教えてもらってないんだ」
「なら僕も一緒に行きますです」
 そう言うと魅音と梨花は受付の白衣の女性に近寄っていった。
 遠目で女の顔を確認する。
 あれは……鷹野か。一見普通のナースに見えるが、たしか彼女もまた入江や診療所のスタッフと共にこの診療所で雛見沢症候群の研究をしているんだったな。
 あまり気が進まないが、近いうち彼女にも話を聞いておくべきだろう。
「ルル、何ぼけっとしているのさ」
「はい……?」
 気がつくとすでに魅音らは受付から戻って来ていたようだ。無意識のうちに呆けた返事をしてしまう。
 そんな俺に対して、魅音は責めるように口を尖らせた。
「もうっ、しっかりしてよ。沙都子はこの奥の個室だって言ってんの!」
「あ、ああ、了解した」
「まったく。ルルはちょっとマイペース過ぎだよ。私は先に行くからね!」
「あ、おいっ」
 魅音は呼び止めの言葉も空しく、一人慌しい様子で診療所の奥へと姿を消していった。
 その場には梨花と俺だけが取り残される。
 最初に口を開いたのは梨花だった。
「ルルーシュ、沙都子が気になるわ。私たちも行きましょう」
「ああ、そうしよう。だが俺はその前にしておきたいことがある。悪いが先に一人で行っていてくれないか?」
 梨花は不思議そうに首を傾げ、たまらず聞き返してきた。
「しておきたいことって何よ?」
「……俺は先ほど雛見沢症候群の急性発症を起こしかけた。俺にはこのままでいいとはどうしても思えない」
 周囲を確認後、声を落として梨花に囁く。
「? 貴方が打った注射――C120は雛見沢症候群の病原性を急速に沈静化させ、無害なレベルまで引き下げる効果を持っているわ。手遅れなケースも当然あるけれど、貴方の場合はもう心配しなくても平気そうだけど?」
「いいや。念のために専門家の判断を仰いだほうがいい」
 俺はあっさりと首を横に振る。梨花は大丈夫だと言っているが、素人判断で病状の良し悪しを決め付けるわけにはいかないだろう。梨花に頼み、入江に病状の検査をしてもらうことにした。
 梨花の話によるとすでに短時間で結果が出る簡易検査も確立されているようなので、梨花の死を回避するために動ける時間もそんなに減るわけではない。
 それに何も検査だけのためにわざわざ入江と接触したいわけではないことも合わせて伝える。
 彼から直接、雛見沢症候群の話を聞かせてもらうつもりだ。
 そう俺が豪語すると梨花は表情を少し曇らせた。
「果たして正直に話してくれるかしら……」
「なんだ、えらく弱気だな?」
「だって、雛見沢症候群の存在はこれまで隠匿され続けてきたんだもの。簡単に答えてくれるとは思えない。最悪、秘密を知る者は東京によって消されるかも知れないのよ……」
「そんなに難しく考えるな。大丈夫、入江ならばきっと快く話をしてくれるだろうさ」
「その根拠は?」
 梨花に聞かれて俺は即答した。
「入江は変人だが、正しく医者だ。彼の性格からしても一度急性発症を起こしている俺を、放っておくことはしないだろう」
 そう……。これから先、俺はいつ雛見沢症候群を再発させてもおかしくはないのだ。
 隠匿されてきた病とはいえ、患者にとって自らの病気を知るのは大事なことだと、入江なら考えるはず。
「ならいいのだけど……でも」
 梨花はまだ納得いかないようだ。
 そんな彼女の頭を軽く撫でると、俺は不敵に笑った。
「心配は無用だ。もし入江が非協力的な態度を取ったなら、こちらもギアスの使用を辞さないさ」


272 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/08/28(金) 21:48:28 ID:zqfuJdgT
 梨花が沙都子の病室に入って、しばらく時間を置いてから俺は病室の入り口から室内を覗き込んだ。
 事前に聞いていた通り、沙都子は頗る元気そうだった。皆に対して何やら申し訳なさそうな笑顔を浮かべていたが、それでも彼女の安否を確認出来たことに安堵のため息を漏らす。
 納得すると室内へは入らず、ワイワイと雑談に興じる皆に気づかれぬよう一人踵を返した。
 入江と接触するため受付にて診療の手続きをする。病室に行く前に梨花が自分も付き添うと言ってくれたが、沙都子と話したいことがあるだろうと思い、俺はその申し出をきっぱりと断っていた。
 受付での鷹野との会話は二三やり取りをするだけの簡単なもので済まし、待合室の長椅子に腰をかける。清潔感のある真っ白な天井を見上げて一息をついた。
 ……しかし、まさか先日俺が風邪で通院した診療所が謎の奇病の研究をする施設だとは思わなかったな。たしかにひなびた寒村の診療所にしては立派過ぎるとは思っていたが……。そんなことを今更ながら考える。
 三人ほど別の名前が呼ばれた後、自分の番が来る。椅子から立ち上がって診療室へと足を運んだ。
「ランペルージさん。大活躍だったそうじゃないですか」
 診療室に入った早々に入江からそんな言葉をかけられて、俺は呆けた声を上げた。
「はい?」
「またまた。沙都子ちゃんの件ですよ。聞きましたよ、なんでもあの園崎お魎さんを説き伏せたとか」
「ああ、そのことですか。いえ、説得なんてそんな。ただお願いを聞いてもらっただけですよ」
 もっとも、お魎に拒否権はなかったがな。心中でほくそ笑み、入江の前に置かれた背もたれのない丸椅子に近寄る。
「あ、どうぞおかけください」
「失礼します」
 俺は入江に促されて丸椅子に座る。
 そんな俺を前にして入江はうな垂れた。
「しかし、沙都子ちゃんがここに運び込まれた時は本当に驚きました……。まさか彼女がそのような状況に置かれていたとは……」
「無理もないですよ。担任の知恵先生ですらこの間まで知らなかったことですから」
 珍しく真顔で悔いている入江に対して慰めの言葉をかける。
 それにも入江は難色を示す。
「いえ、しかし……私は恥ずかしい……。日頃から沙都子ちゃんために何かしたいと思っていながら、ここぞという時に何も出来なかった……。だから私は……」
 しばらく入江による懺悔が続く。
 俺は一通りそれを聞き終えると、首を横に振って言葉を投げかけた。
「入江先生、それは間違っている」
「え?」
 入江はきょとんとしてただ俺の次なる言葉を待っていた。
「貴方は何も出来なかったというが、沙都子のために最善の治療をしてくれたじゃないですか」
「それは……医者として当然のことをしただけで……。なにも、沙都子ちゃんだから特別というわけではありません」
 俺は再び首を横に振ると同時に入江の手を握り締め、ぽつりと言った。
「その当然に感謝します」
「え?」
 顔を上げ、きょとんとする入江。彼に対して言葉を続ける。
「その当然が出来ない、そんな村のしがらみが沙都子を苦しめていた。なのに貴方は医者としてそれを当然と言ってのけた。ならば貴方は出来たんだ。言い切ってもいい。もし仮に今回の件を貴方が知っていたなら、貴方は沙都子を助けるために少しも協力を惜しまなかった」
「ランペルージさん……」
 入江は身体を震わせ、一抹の涙を零した。その様子を見られまいと、白衣で隠すようにして涙を拭うとすっと立ち上がった。
「……ちょっとコーヒーを持ってきますね。待っていてください」
 そう震えた声で言うと返事も待たずに診療室を出て行く。
 俺はその後姿を黙って見送った。


273 名前:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek [] 投稿日:2009/08/28(金) 21:49:21 ID:zqfuJdgT

 数分後、コーヒーの香りを漂わせて入江は診療室に戻ってきた。手には二人分のコーヒーカップを乗せたトレイを持っている。
「インスタントで申し訳ないのですがどうぞ」
「ありがとうございます」
 カップを一つ、火傷に気をつけながら受け取る。
 エアコンの心地よい冷風もそろそろ肌寒く感じてきたところなので、温かいコーヒーだったのがとても嬉しい。ありがたくカップを口に運んだ。
 入江は一度コーヒーを啜ると、それから遠慮がちに口を開いた。
「ところで……今日はどんなご用件で? もしやまだ風邪が治られてないとか」
「いえ、今日は別件です」
「別件?」
 怪訝な顔で聞いてくる入江。さてどう話を切り出すべきか……。
 しばらく思案した後、結局単刀直入に聞くのがベストだという考えに至り、入江に詰問する。
「雛見沢症候群について分かることを教えていただきたい」
「なっ……」
 入江は俺の口からそんな話題が飛び出すなどまったく予想だにしていなかったのだろう。驚きで声を失っていた。
 それでも必死に誤魔化すように稚拙ながら言葉を紡いだ。
「な、なんですか? その雛見沢症候群とは一体……?」
 入江は視線を逸らし、机に置かれたカルテを手に取った。
「すみません、急な仕事を思い出したのでお引取り願えますか」
 俺の返事も待たずに捲し立てるように言葉を連ねる入江。その表情にはあからさまな焦りが見え隠れしていた。
 俺は間髪いれずに首を横に振り入江を追い詰めた。
「妙な誤魔化しは無用です。粗方のことは梨花から話を聞いて知っていますから」
「え、古手さんから、ですか……?」
「ええ。ですから入江先生、あまり手間を取らせないで欲しい」
 入江は梨花の名を出され、観念したようだ。深いため息を付くと、徐に二口目のコーヒーを口に運び入れた。
「どこまでご存知なんです……?」
「その問答に意味はないでしょう」
「そう、ですね。……では、逆にお尋ねします。何故古手さんは貴方にその話をされたんですか?」
「それは――――」
 入江の疑問に対して一呼吸置くと、俺は自らが発症に至るまでの経緯をこと細かく打ち明けた。


続く


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